
仮想通貨の管理に用いられているブロックチェーン技術は暗号資産のためだけの技術ではありません。
過大な負荷を分散的に処理するブロックチェーン技術は様々な分野に応用が期待されています。
ブロックチェーンが社会を変えると期待されていますが、すでに私たちの生活のあらゆる場面でブロックチェーンの進出が進んでいます。
特に期待されるのが福祉分野への活用です。
これからの時代において福祉事業への大規模なテクノロジー導入は必須です。
これまではマンパワーで処理されてきたことが大い福祉の分野にブロックチェーン技術が導入されれば低コストでスピーディーな処理によってより効率的な福祉施策が実行可能になりますが、一方で課題も少なくありません。
ブロックチェーン技術は福祉にどのような恩恵や変化をもたらすのでしょうか。
福祉の分野ではすでにブロックチェーンが使われている?
福祉などの分野への導入が期待されるブロックチェーン技術ですが、実はすでに一部の事業でブロックチェーンが使われています。
難民キャンプ支援は社会福祉の大きな課題
難民キャンプ支援は国際的な社会福祉の大きな課題の一つです。
生活に困窮する難民に確実に物資や金銭を届ける必要がありますが、人の手を介した物資の配給には不正の問題がつきまといます。
帳簿のごまかしやピンハネなどによる不正な物資の略奪は後を絶たず、計算上は十分なはずの支援なのに実際に難民の手元に届くのはその1/10に満たないということも珍しくありません。
警察や軍が厳しく取り締まればいいという意見もありますが、取り締まりには人件費をはじめ多額のコストが発生してしまいます。
紛争地域では軍や警察が率先して不正を行うこともよくあるため、厳重な対策を行おうと思っても限界があります。
イーサリアムを用いた送金
難民支援の不正被害を防ぐためにヨルダンの難民キャンプで暮らすシリア人支援で実際に導入されたのが仮想通貨イーサリアムを用いる送金です。
ブロックチェーンを活用するメリットは、銀行の手数料を削減しながら、支援金を難民に直に届けられることだけではない。それ以上に重要なのは、難民がより汎用性のあるIDを手にすることができる点だ。
UNHCRが運営するキャンプでは、収容者に一時的な文書を発行している。しかし、身分証明として有効なのはキャンプ内のみで、ほかの場所では使えない。書き換えや削除ができない台帳に記録を残していけば、それが新天地でIDとしての機能を果たすかもしれないのだ。
このプロジェクトでは難民支援のために物資を送るのではなく、ブロックチェーンにより厳重に管理された仮想通貨イーサリアムの送金によって支援を実施しました。
難民は1人1人瞳の虹彩認証で個人識別され、個人宛の口座に送金されたイーサリアムを受け取ります。
ブロックチェーン技術のおかげで銀行間送金で発生する高額な手数料は必要なく、効率的に支援金を配分することが可能になりました。
仲介者によるピンハネやごまかしなどの不正もブロックチェーン技術の強固なセキュリティにより防止され、支援側にとっても難民側にとっても理想的な結果が出ています。
個人を識別して追跡調査
ブロックチェーン技術を応用すれば個人を識別し追跡調査することが可能になります。
戦争被害により難民化した人々は自らの身分を証明する手段を持っていません。
瞳の虹彩や指紋などをブロックチェーン上で保管していれば、身一つで焼け出されても自分が何者であるかを証明することが可能になり、身分証明の問題が解決されます。
国籍の再取得時にもブロックチェーン上に保管された個人情報が身元証明に役立ちます。
年金の受給者管理
イギリスでは年金の受給者管理にブロックチェーン技術を導入する社会実験が検討されています。
英保険大手リーガル・アンド・ ゼネラル(Legal & General=L&G)は、アマゾンのクラウドコンピューティングサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」を利用して、年金商品「バルク・アニュイティ(Bulk Annuity)」契約管理用のブロックチェーン・システムを立ち上げる。
L&Gは、バルク・アニュイティの管理・記録にAWSの「アマゾン・マネージド・ブロックチェーン(Amazon Managed Blockchain=AMB)」を利用する。ロイターが6月12日(現地時間)に報じた。バルク・アニュイティとは、保険会社が企業の年金支払債務や運営を引き受ける契約。
年金はイギリスにおいて対象者が最も多い公共サービスです。
個人情報の管理だけでも多大なコストが発生しますが、ブロックチェーン技術を用いることで管理負担が大幅に軽減され、不正受給を防止すると同時に効率よくミスのない年金支給が実現すると期待されています。
世界的に見て、福祉分野で抱えている問題点
個人情報の管理
情報の管理は福祉分野における最重要課題の一つです。
福祉にまつわる情報は第三者に知られたくない重要な個人情報です。
その取り扱いには慎重な対応が求められますが、残念ながら福祉の現場では個人情報の取り扱いが十分とは言えません。
何かと忙しい福祉の現場では本来厳重に管理されるべき個人情報がおざなりに扱われることも多く、外部への流出や保護されるべき情報の喪失などリスクが懸念されます。
不正防止
福祉分野では補助金や手当など色々な場面で金銭のやり取りが発生します。
残念なことに福祉の分野でも不正は避けられません。
健康なのに障害があることを装ったり年齢をごまかすなどして補助金や支援金を不正に受けとる事件は後を絶ちません。
ある調査では福祉分野で投入される公共的な自然のうち不正な受給が20%を占めているというデータも確認されています。
福祉の不正利用は単に金銭を詐取するというだけではなく、本来支援が必要なはずの人にケアの行き届かなくなってしまうという点で悪質です。
チェック体制を厳しくして被害を防止しようとすると今度は利用できなくなってしまうため、チェックを厳しくしたくても簡単にはできません。
情報の連携
福祉の分野でも縦割り行政が多いのは世界的に共通して見られる傾向です。
本来であれば福祉に関連する情報は個人単位で投稿管理されるべきですが、現在のところそのような動きはほとんど見られません。
各セクションの情報の連携は十分とは言えず、そのことが原因で本来受けられるはずの支援が受けられなかったり似たような内容の二重支援が発生しています。
情報の共有が実現すれば支援の効率はかなりの改善が期待されますが、現在のシステムではそれにも限界があります。
利用者の孤立化
福祉サービスを利用する利用する人たちの孤立も解決が求められる重要課題です。
社会的に弱い立場にある人はどうしても活動範囲や交流範囲は限られてしまうため孤立化しやすく、金銭的には十分満たされていても精神的なケアは十分とは言えません。
情報が十分届かないばかりに必要な支援が受けられず孤立化してしまう人も多く、これから先家族の人数が少なくなっていくことが確実な日本においては真剣に検討が迫られる問題です。
ブロックチェーンは普及すると解決されること
データ管理が個人単位に集約され情報の連携がスムーズに
ブロックチェーンの普及により解決が期待される中で最も多くは望まれるのが個人情報の管理及び識別です。
福祉の世界ではサービスの対象者は個人単位が基本になります。
誰がどれだけどんなサービスを利用するのか、適切に支援を実行するには個人情報をきちんと識別した上で管理する必要があります。
現場では個人情報の管理は十分とは言えません。
身分証の不正利用で他者を装ったり結婚する向けて補助金を二重に受け取ったりと、福祉支援を悪用する事件は日常的に発生しています。
ブロックチェーンは取引データを含む全てのデータを追跡できるので、個人単位で識別し身元の証明が可能になります。
補助金の受給データも個人単位で管理できるので不正利用があればたちまち判明します。
情報追跡力が抑止力となることで不正利用による被害を大きく減らせます。
取り扱いの主体が福祉サービスの利用者本人になるのもメリットです。
これまでのデータ管理では、データを保有する側つまり自治体や病院などがそれぞれ個別にデータを持っていましたが、ブロックチェーンにより個人情報と紐づけることで本人が主体的に情報を管理できるようになります。
病院を変えてもこれまでのデータをそのまま利用できるので優先的にも時間的にもコストをかけずに済みます。
身元証明が可能に
情報を継続的に追跡できるなブロックチェーンのおかげで、個人の身元を証明することが可能になりました。
身元証明の手段を全て失っても個人を識別するデータはブロックチェーン上に保管されているため、指紋や瞳の虹彩などを登録しておけば誰でも簡単に身元が証明できます。
他人の身分証の不正利用や偽造などもブロックチェーン上の情報と照合することで簡単に防止できます。
処理負担の軽減
福祉分野はサービスを利用する対象人数が多いため網羅的に管理するためには高い処理能力が必要でした。
ブロックチェーン技術を投入することで分散処理が可能になり、高性能のコンピューターがなくても大量のデータを処理することができます。
規模の拡大による追加設備投資の必要がなく運用コストを削減することも可能です。
処理負担が分散されているため急激にデータ量が増えてもそれがストップすることはほとんどありません。
サーバー落ちなどのトラブルに強いため、安定的なサービス供給が課題となっている福祉の分野でも同様の効果が実現可能です。
強固なセキュリティの実現
ブロックチェーンの情報は暗号化されたデータとして存在しているためセキュリティは万全です。
データを閲覧できるのは閲覧権を得た人物や端末のみであり、万が一第三者の手に渡るようなことがあっても情報を盗み見られてしまう可能性はほとんどありません。
ブロックチェーンはネットワーク上で追跡が可能です。
不正流出のあったとしても追跡調査ができるので調査は迅速に進められます。
そのことが抑止力となるため利用のリスクはさらに低減します。
個人情報を厳格に守られるため情報を流出させたくない相手との取引も可能です。
従来の個人間送金ではネット銀行や決済会社が間に入ることで信用が担保されますが、ブロックチェーンならそもそも相手の個人情報を知ることなく高いセキュリティで取引できるので仲介手数料をかけずにお金をやり取りできます。
ブロックチェーンの将来性
ブロックチェーンは将来有望な技術です。
導入により福祉分野の課題の多くは解決が可能で、より効率的できめ細かいサービスが実現します。
一方でブロックチェーンは単なる技術にすぎないのも事実です。
有益なアイデアがなければブロックチェーンは宝の持ち腐れとなってしまいます。
有望な将来性を活かせるかどうかはこれからの取り組み次第と言えるでしょう。
まとめ
ブロックチェーンは福祉分野の課題を一気に解決してくれる期待を秘めた技術です。
明るい将来を迎えるためにも一刻も早いブロックチェーン技術の本格的な導入が望まれます。