
Tether社が発行する仮想通貨テザーに重大な疑惑が持ち上がっています。
その疑惑とは、テザーの信頼性に大きく関わるもので、ことによるとテザーの価値が一気に暴落しかねない重大な問題です。
現段階では疑惑は噂の域を出ず、真偽の程ははっきりしていません。
しかし、テザーに向けられた疑惑が事実であるとすれば、問題はテザーだけにとどまらず仮想通貨市場全体に波及する恐れがあります。
今回は、今なお火種としてくすぶり続けるテザーについての疑惑について解説します。
テザーにかけられている疑惑とは
テザーにかけられている疑惑を簡単に説明すると
「テザーの価値を裏付けていたドル資産を発行元であるTether社は保有していないのではないか?」
というものです。
リスクヘッジが目的のステープルコイン
テザーは仮想通貨の中でもステーブルコインと呼ばれる性質の通貨です。
ステーブルコインとは仮想通貨におけるリスクヘッジを目的として発行するもので、価格変動が少なく安定性が高いのが特徴です。
一般的な仮想通貨は投機的な資金の動きにより激しく値動きします。
値動きの大きさは一攫千金を狙うユーザーにとっては歓迎すべきことですが、仮想通貨を取引手段として利用するユーザーからすると不安定な通貨というのは非常に不便です。
買い物するために購入した仮想通貨が、一日で価値が半減するようなことがあれば安心して保有していられません。
投機的な目的以外で仮想通貨を保有するユーザにとっては、値動きが少なく価値が安定している仮想通貨のほうが、安心して取引に使える便利な通貨ということになります。
そこで開発されたのがステーブルコインです。(詳しくは下記をご覧ください)
ステープルコインは主に2つに分けられる
ステーブルコインには大きく分けて2つの種類があります。
- 信頼を担保に価値を安定させている通貨
- 法定通貨と連動させることで価値を安定させている通貨
テザーは後者に分類されるステーブルコインで、アメリカの法定通貨である米ドルと価値を連動させることで仮想通貨としての価値を安定させています。
1テザー=1米ドルと固定されている
テザーの価値は、1テザーが1米ドルで固定されています。
テザーを購入したいユーザーは、1米ドルを支払うことで1テザーを入手します。
テザーを保有するユーザーが米ドルを入手したい場合は、いつでも米ドルと交換可能で、発行元であるTether社に申し出れば固定レートで交換に応じてもらえます。
実質的な価値が1テザー=1米ドルで固定されているので、テザーは仮想通貨における擬似的な米ドルとして機能しています。
テザーの価値はTether社の保有する米ドル資産によって裏付けられています。
テザーの発行枚数はTether社の保有する米ドルが上限となっており、一般的な仮想通貨のようにマイニングで流通量が変動することはありません。
兌換紙幣の価値が国が保有する金で裏付けられているように、テザーの価値もはTether社の保有する米ドルによって直接的に保証されています。
疑惑が事実であれば信頼性に疑問が生じる
ここまでテザーの基本的な仕組みを説明してきましたが、
最初に説明した「テザーの価値を裏付けていたドル資産を発行元であるTether社は保有していないのではないか?」という疑惑が重大な問題であることがお分かりいただけたでしょうか。
テザーの価値はTether社の保有する米ドルによって裏付けられているとされてきましたが、もしTether社が十分な米ドルを保有していないという疑惑が事実であるとすればテザーの信頼性に疑問が生じます。
仮にTether社の保有する米ドルがテザー発行枚数の10分の1しかなかったとすれば、テザーの価値は現在の10分の1しかないということになってしまいます。
これは安定性をめざすステーブルコインとしては致命的な問題です。
テザーは市場操作が可能?
さらに、テザーには米ドル不足に加えもう一つの疑惑が持ち上がっています。
テザーに関するもう一つの疑惑が
「Tether社と関わりの深い取引所Bitfinexを通じてビットコインの不正な買い支えが行われていたのではないか?」
というものです。
Bitfinexは元手ゼロでテザーを入手した疑惑
Bitfinexは仮想通貨の売買に携わる取引所です。
Bitfinexはテザーの発行元であるTether社と深い関わりがあり、不正な取引で得たテザーを原資にビットコインを支えていた疑惑が持たれています。
BitfinexがTether社から入手したテザーを原資にビットコインを買い支えること事態は問題ありません。
疑惑が持たれているのはテザー入手に関する手続きです。
本来であればテザーを購入するには相当額の米ドルが必要です。
1億テザーを入手するには1億ドルを支払う必要がありますが、Bitfinexは本来支払わなければならない米ドルを支払わずにテザーを入手したのではないかと疑惑が持たれているのです。
この疑惑が事実であるとすれば、Bitfinexは元手ゼロでテザーを入手したことになります。
本来であれば米ドル支払いが必要なのに、支払いが一切行われなかったのですから、Tether社側には準備金不足が生じます。
BitfinexとTether社が癒着してそのような不正処理が行われていたのが事実であれば大問題です。
不正入手したテザーでBTCを買い支えた疑惑
更に問題を大きくしているのが、不正入手したとされるテザーの使い道です。
Bitfinexには不正入手したテザーを原資にビットコインを買い支えていた疑惑が持たれています。
疑惑が事実だとすると、元手ゼロで得たテザーを利用してビットコインを買い支えているのですから、不正処理が行われる限りいくらでもビットコイン市場に資金を流入させることができてしまいます。
それは市場操作以外の何物でもありません。
BTCの相場も大きな影響を受ける
さらに、市場操作の原資となるテザーには米ドルの裏付けがないので、買い支えによって上昇したビットコイン相場も資金的な裏付けがないまま価格だけが上昇してしまったことになります。
もしテザーに持たれている疑惑が全て事実だったとすると、テザーの信頼はもとよりテザーによって買い支えられていたビットコインの相場まで信頼が揺らいでしまうことになります。
資金的な裏付けなしにテザーを入手できるのであれば市場操作は簡単です。
ステーブルコインは信頼性の高い仮想通貨ですが、その信頼性を悪用されてしまえば不正な操作により市場は大混乱に陥るでしょう。
疑惑にかけられたテザーの時価総額とビットコインの価格が比例している?
疑惑にかけられたテザーの時価総額とビットコインの価格ですが、過去のチャートを見てみるとその動きには強い相関関係が見られます。
テザーが先行しビットコインが後を追う
テザーの価格が上昇するとつられるようにビットコイン価格も上昇し、テザーが大暴落した時期から少し送れてビットコイン価格も急落しています。
$300m new USDT minted.. Probably nothing right?? $btc😈 pic.twitter.com/XwA9kb5ReN
— fil₿fil₿ (@filbfilb) 2019年4月24日
ビットコインは仮想通貨市場における主要通貨なので影響力は強く、ほとんどの仮想通貨は大なり小なりビットコインの影響を受けています。
チャートが似たような動きをしているという事実だけでは疑惑の証拠にはなりませんが、注目すべき点はチャートの変動は全てテザーが先行し後を追う形でビットコイン価格が変動している点です。
テザーとビットコインの間に因果関係がある
世界経済の変動やユーザーのファンダメンタルズ的な理由で仮想通貨市場に動きが見られるとすれば、最初に大きな影響をうけるのは最大規模を誇るビットコインのはずです。
しかし、実際のチャートを見てみるとビットコイン価格が変動するより前にテザーの時価総額が動いています。
このことから、過去の値動きは外的要因によるものではなく、テザーとビットコイン間に何らかの因果関係が働いていると考えられます。
両者間の因果関係はテザーの疑惑そのもの
テザーとビットコインの間に存在する因果関係とは、現在テザーに対して持たれている疑惑そのものです。
「米ドルによる裏付けのないテザーを用いて実行されたビットコインの買い支え」という仮説は、テザーの時価総額とビットコインの価格が比例している事実を見事に説明しています。
物的証拠はありませんが状況証拠としては十分です。
テザー疑惑に対するTwitter上の評判
テザー疑惑に対してはTwitter上でも様々な意見が飛び交っています。
昨日162億円超もの #USDT が新規発行されたよう
面白いのが「USDTと #BTC の時価総額の関係」
BTCが大きく動くときは必ず #テザー の量が先に大きく変動し、2018年10月はUSDTが大きく減るとその後BTCが暴落。
ということは間もなく爆上げか!?#cryptocurrency #仮想通貨 #blockchain #資産運用 #FX— ゴーゴーチャンプ (@oLxbWRjagzQ38xY) 2019年6月12日
テザーを糾弾する意見や責任を当意見が優勢ですが、冷静に事態を見つめ関係機関の調査結果を待ちたいという意見が最も多く見られます。
#ビットコイン 価格オーバーナイトで20%も急騰したんですね!
その後日本時間5時台に10%弱下がったみたいですがにしても今年入ってから4月以降は特に顕著ですが、ビットコインの取引高と #テザー の取引高がほぼ毎日同水準なのが謎過ぎます pic.twitter.com/mJWyhMYwWb
— aki.dream (@akidream1) 2019年6月26日
疑惑が持ち上がった当初は動揺が見られたものの、現在のところTwitter上では落ち着きが取り戻されています。
全体としてみるとテザーに対する不安の声は多く見られます。
テザー疑惑…。
発行分の $USDT に対するドルの準備金はちゃんと存在するのかな💰♢『昨年3/29から今年1/4までのBTC価格の上昇のうち48.7%は、91回にわたる新規テザー発行直後の二時間以内に起こっている』との分析も。
♢直近の5カ月でテザーの発行量は10倍に増えた。
— ドバイ@いいね! (@rakiyokora23610) 2019年6月25日
疑惑を証明する決定的な証拠は見つかっていませんが、疑惑を払拭する説明も行われていません。
「火種はくすぶり続けているものの燃え広がってもいない」という微妙なバランスで平穏が保たれている状態です。
結局テザーって使用しても大丈夫?
一時は価値が大暴落したテザーですが、現在のところ相場は落ち着きを取り戻しています。
市場動向だけを見れば使用に当たり大きな問題は見られません。
疑惑を持たれたTether社側も問題解決のために動きを見せています。
- 関係各所へ疑惑が事実ではないとする報告書を提出
- 公聴会で潔白であることを説明
といった公的な声明を発表しており信頼回復に努めています。
テザーを使用しても大丈夫かどうかは、個人で判断するしかありません。
多くのユーザーが問題発覚後もテザーを使用していることを考えれば、あまり心配する必要はないとも言えますが、ある日突然テザーの価値が暴落する可能性も否定できません。
最終的な判断は個人で責任を持ってするほかないのが現状です。
テザーの将来性
技術的な観点からみると、テザーの将来は有望です。
米ドルと連動して価値が保証されるステーブルコインという特徴から、テザーの需要は高く、特に国際間取引において米ドルの代替となる仮想通貨というのは強く将来性を期待されます。
一方で、疑惑が払拭されなければ安心して使えないというのも事実です。
疑惑が事実であることを示す証拠が明るみに出れば、その瞬間テザーの価値は大暴落するでしょう。
将来性という点だけを考えれば技術的には有望ですが、心理的には不安というのがテザーの評価です。
まとめ
テザーにまつわる数々の疑惑は問題が長期化しています。
疑惑を証明する決定的な証拠も潔白を証明する証拠も出てこないため、グレー状態のまま取引が続けられている状況です。
米ドルの裏付けが事実でなかったとすれば、テザーに対する評価はガラリと変わります。
テザーの疑惑をきっかけに仮想通貨市場全体が大きく揺らぐ可能性もあります。
全ての仮想通貨を巻き込む危険性がある以上、全てのユーザーにとってテザーの疑惑は対岸の火事ではありません。
事態の推移を注視し、適切な対応が求められます。