ハイパーインフレや難民増加が社会問題となっている国「ベネズエラ」。
仮想通貨に関連することで言えば、2019年2月にビットコイン取引量が過去最高を記録したことや、2018年2月に世界で初めてベネズエラ政府が仮想通貨ペトロを発行したことなどが話題となっています。
この記事ではそんなベネズエラにおけるインフレの現状や、仮想通貨との関りについて詳しく解説しています。
以下のような要望・疑問をお持ちの方にも満足いただける内容となってますので、是非最後までご覧ください。
- ベネズエラのハイパーインフレについて知りたい
- ビットコイン取引量が過去最高を記録した理由・仕組は?
- 仮想通貨ペトロって何?
- 仮想通貨ペトロには投資すべき?
ベネズエラとは
国名 | ベネズエラ・ボリバル共和国 | 政治 | 現政権:ニコラス・マドゥロ氏 |
民族 | 混血 | 鉱業 | 原油・天然ガスに恵まれる |
言語 | スペイン語・ドイツ語 | 人口 | 約3200万人(日本:約1.3億人) |
宗教 | ローマ・カトリック | 問題 | 難民、治安、原油生産量の低下 |
ベネズエラ・ボリバル共和国(以後 ベネズエラ)は南アメリカ北部に位置しており、首都をカラカスとする連邦共和制国家です。(下記画像参考)
同国は南アメリカ大陸有数の”自然の宝庫”として知られており、特に同国の外貨獲得源の大半を占める「原油」はサウジアラビアに次いで世界第二位の生産量を誇っています。
ここからはベネズエラへの理解を深めるべく、同国が抱える以下3つの問題をご紹介します。
- 難民
- 治安
- 原油生産量の低下
特に、3つ目の「原油生産量の低下」は、ベネズエラと仮想通貨の関係に深く関わってくる内容ですので、是非ご覧ください。
ベネズエラ難民
ベネズエラ最大の問題として注視されているのが「ベネズエラ難民」です。
長らく反米政権が続いたベネズエラでは、2015年頃から政治的迫害などの理由により難民の発生が目立ち始めました。
アメリカ市民権移民局では、2015年時点での亡命申請者(難民)数は5,605人。2016年では14,700人を突破したことが報告されています。
さらに2017年以降は、詳しく後述する「経済危機」や「政治混乱」により難民増加に拍車がかかり、2019年4月時点での難民数は350万人を突破しているとされています。
このような状況を受け、「ベネズエラ難民の受け入れ」が南アメリカ大陸周辺の社会問題となっており、エクアエドル共和国の首都キトでは「キト宣言(※)」が発表され、「ベネズエラ難民を十分受け入れる」と発表されました。
キト宣言とは、ベネズエラ難民受け入れに関し、エクアドルの首都キトで行われた会議をもとに発表された宣言のことです。
ベネズエラ難民の現状を鑑みた中南米諸国は2018年9月4日、エクアドルのキトにて「ベネズエラ難民対策の国際会合」を開きました。
結果、有効な難民対策はまとめられなかったものの、「キト宣言」を発表し、ベネズエラ難民を十分に受け入れるという意思表示を行いました。
難民受け入れの問題は非常に奥が深く、安易に受け入れを許容すると、治安悪化にもつながる恐れがあります。
事実、大量のベネズエラ難民を受けて入れている中南米諸国の中にはは難民襲撃、窃盗、殺人など、治安悪化が報告されている国も多数存在します。
ベネズエラの治安
ベネズエラの治安は世界最悪水準とされています。
特に、殺人事件の発生率は1999年以降 漸加しており、2003年をピークに一旦減ったものの2005年以降は再び増加に転じています。
また、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が発表した報告書によると、殺人事件の発生率が最も高い国は中米ホンジュラスで、2番目がベネズエラとされています。
治安悪化の原因は「政治混乱」「経済危機」「インフラ不整備」などとされていますが、警察組織が機能していない点も指摘されており。
警察組織・国家警備組織の腐敗は日本・財務省も警鐘を鳴らすほどで、現職警察官により犯罪も多々見受けられています。
原油生産量の低下
ベネズエラにおける輸出総額の95%を占めるとされている鉱物が「原油」です。
先述した通り、ベネズエラの原油産出量はサウジアラビアに次ぐ第二位であり、同国の外貨取得方法として無くてはならない産業として知られています。
ただ、ベネズエラにおける原油産出量は2006年の334万バレルから漸減しており、2017年時点での原油産出量は211万バレルを記録しています。
原油は、後述する「仮想通貨ペトロ」の担保とされている鉱物で、今後も漸減を続けるようであればペトロの信頼問題にも発展する可能性が高いです
ベネズエラの政治・経済状況
ここまでで、ベネズエラが抱える3つの問題についてお分かりいただけたかと思います。
続いては、それら3つの問題を引き起こした根本的原因とされる「政治」と、その政治が招いた「経済危機」の現状を、解説します。
後述する「ベネズエラと仮想通貨」にも深く関わってくる内容となっていますので是非ご覧下さい。
ベネズエラの政治
まずは「ベネズエラの政治」についてです。
ベネズエラの現政権はニコラス・マドゥロ氏にあり、政体としては共和制をとっているものの、その政治指針から「独裁政権」と表現されることも少なくありません。
ニコラス・マドゥロ氏はもともと「バスの運転手」で、政治経験の無いいわば素人でした。
前大統領のウゴ・チャベス氏に後継者として指名されたことで大統領となったマドゥロ氏は、チャベス政権の政治内容をそのまま踏襲。
経済危機に対する有効な政策を行うことができないマドゥロ政権は、議会・野党と激しく対立しますが、強引な手法により政権を維持しています。
2018年5月の大統領選挙は、選挙前に有力野党政治家の選挙権がはく奪されたうえで行われたため、マドゥロ再選の「出来レース」状態となり、主要野党はそれに反発して選挙をボイコットした。
マドゥロ政権は国際選挙監視団の査察を拒否して国民の投票を監視し、マドゥロに投票しなかった者は食糧配給を止めるなど、なりふり構わぬ選挙戦を展開
2019年1月から2期目に入ったマドゥロ政権は、国民議会議長フアン・グアイドの「昨年の大統領選挙は無効」との主張により、政権をはく奪されており。
2019年4月現在のベネズエラは、大統領不在という状況となっています。(憲法規定により国民議会議長であるグアイド氏が暫定大統領)
ベネズエラの経済
ベネズエラの経済状況を一言で表現するなら「ハイパーインフレ」が一番適当な言葉になると考えます。
ハイパーインフレとはすなわち、貨幣の擦りすぎにより自国通貨の価値が暴落し、物価がすさまじく上昇する現象のことを意味します。
上記画像からは、自国通貨の価値が暴落し、紙幣が紙切れ同然の扱いとなっている様子がうかがえます。
「なぜハイパーインフレが起こったのか?」という疑問は以下の動画をご覧いただければ解消するかと思います。
【大まかな流れ】
- 原因はウゴ・チャベス前大統領
- チャベスは石油収入を財源とし、貧しい人々にお金をばらまく
- チャベスは貧しい国民から多くの支持を獲得
- 司法・軍・行政などの要職に自身の”支持者”を配置
- ばら撒き金が石油収入を超過(大赤字)
- お金が無いならお金を擦ろう
- ハイパーインフレ
このハイパーインフレは、国民生活に多大なる悪影響を及ぼし、以下のような問題を引き起こします。
- 生活必需品の購入困難
- 経済活動の低下
- 失業率の増加
- 犯罪率の増加 など…
事実、ベネズエラでも上記のような問題が多数発生しており、生活の安定を求めて他国への移動を行う人々が増加。
先述した通り、いわゆる「ベネズエラ難民」問題が深刻化しています。
ベネズエラと仮想通貨
「ベネズエラと仮想通貨の関係は?」と聞かれて真っ先に思い浮かぶ回答は以下2つです。
- ベネズエラ政府が発行した仮想通貨ペトロ
- ビットコイン取引量が過去最高を記録
世界で初めて、ベネズエラ政府が”政府として”発行したことで注目を集めた仮想通貨ペトロに関しては詳しく後述するとして、
気になるのは「ビットコイン取引量が過去最高を記録」ですよね。
ビットコイン取引量が過去最高を記録
2019年2月初め、ベネズエラのビットコイン取引量が過去最高を記録したというニュースが話題になりました。
ベネズエラにおけるビットコインの取引量が過去最高を記録した。
取引量は、一週間で約2000BTC、およそ700万ドル(約7.7億円)に相当する。
昨年夏の取引量500BTCと比較すると400%の上昇率だ。
引用:COINPOST
取引量はわずか一週間で2000BTC(約7.7億円)を記録し、半年前と比較すると約400%の上昇率を記録しています。
先述した通り、ビットコイン取引量が過去最高を記録した要因として考えられるのが「ベネズエラのハイパーインフレ」です。
ハイパーインフレによってボリバル(ベネズエラの法定通貨)への信頼が薄れたベネズエラ国民は、
スマホさえあれば資産管理可能、かつ”非中央集権”という特徴を持つ仮想通貨ビットコインに目を付け、利用を開始したというわけですね。
意外かもしれませんが、「自国通貨をビットコインに置き換える」という流れは、経済危機に直面した国でよく確認される現象です。
代表的な例として挙げられるのが「キプロスショック(※)」です。
キプロスショックとは、ギリシャ危機に端を発した経済的混乱のことです。
キプロス政府は2012年、ギリシャ国債の元本減免をうけてEU(欧州連合)に緊急融資を要請。その後、EUから提示された「支援の条件としてキプロスの全預金に最大9.9%の課税を導入する」案に合意しました。
この政策は事実上の”預金封鎖”であり、これにより経済は混乱し、欧州に位置するいくつかの小国は大きな損害を被りました。
キプロスショックは、銀行のような”中央集権”の危うさを全世界に知らしめる出来事となりました。
法定通貨などの中央集権的に管理されている資産は中央への信頼が崩壊してしまうと同時に価値の暴落が起こります。
そのような際に、非中央集権化で機能するビットコイン(BTC)は、「金」と同様に”資金逃避先”として優秀であるとされています。
PayPal創設者Peter Thielは、ビットコイン(BTC)をオンライン上の「金」、すなわち「デジタルゴールド」だとし、
世界経済が崩壊した時のための一種のリスクヘッジだとして称えています。
経済が安定しないベネズエラ
ビットコインの取引量が過去最高を記録したベネズエラですが、現在はインフレに歯止めが効かない状態です。
2018年12月の物価上昇率は141%で、11月と比べると微減しているものの、依然として物資や外貨不足が原因でインフレが止まらない状態が続いています。
国際通貨基金(IMF)は2019年中にインフレ率が年率1000万%に達すると予測。
さらに、現大統領のニコラス・マドゥロ氏ではなく、野党指導者フアン・グアイド国会議長が「暫定大統領」として宣言したことで、政権交代に直面。
マドゥロ大統領の退陣を求めて市民がデモを行うなど、以前としてベネズエラは不安定な情勢です。
国を信用できないという背景もあってなのか、管理者のいないビットコインをはじめとする仮想通貨が注目を集めています。
グアイド氏はビットコイン支持者だった!?
暫定大統領を宣言したグアイド氏に対して、マドゥロ大統領を支持する最高裁判所のマイケル・モレノ判事は、グアイド議長の調査を発表し、その銀行アカウントを凍結すると表明。
この発表に批評家は「グアイドはビットコイン支持者であるため、困ることは無いだろう」との声をあげ、グアイド氏がビットコイン保有者の可能性を示唆しています。
経済ジャーナリストのマックス・カイザー氏は次のようなツイートをしています。
Venezuela's Interim President, @jguaido, was tweeting about #Bitcoin in 2014. To him, El Petro is just another way for Maduro to "scam his own people."
There is hope for Venezuela. https://t.co/BxOT8hc6cdhttps://t.co/ZzKbthkgcK pic.twitter.com/L9DBfP5lSG
— Zack Voell (@zackvoell) 2019年1月23日
携帯電話に完全な銀行を持つということは、スマホなどで管理ができるウォレットを指しているものを受け取れます。
また、グアイド氏は2014年8月に、ベネズエラで最初のビットコイン取引所Plataforma Sur Bitcoinの開設についてをツイートしたという過去も。
暫定大統領宣言ではあるものの、国のトップになろうとしているグアイド氏がビットコイン保有者であれば、国民にもビットコインをはじめとする仮想通貨を保有する文化が広まるかもしれません。
財政状況が危機に陥ると支持されやすくなる仮想通貨。
混乱が続くベネズエラですが、仮想通貨という点だけ見ると未来に希望があると言えそうです。
経済状況や、大統領の行方、仮想通貨の支持、今後のベネズエラの行方と仮想通貨の支持に注目をしていきたいところですね。
仮想通貨ペトロの概要
通貨名 | ペトロ |
---|---|
発行元 | ベネズエラ政府 |
基盤 | NEMブロックチェーン |
プレセール開始日 | 2018年2月20日 |
総発行枚数 | 100,000,000PTR |
公式URL | http://www.elpetro.gob.ve/index.html |
仮想通貨ペトロは、1コイン=原油1バレル価格 にペッグ(連動)したステーブルコインです。
ベネズエラにおける決済・送金・納税などへの利用が想定されています。
ペトロの発行目的
ベネズエラ政府がペトロを発行した目的として考えられるのが、「対外債務返済のための外貨取得」です。
2018年1月時点でのベネズエラの対外債務は15兆円にのぼるといわれており、これを返済することが同国政府の急務とされています。
ペトロのプレセール開始日が2018年2月20日、対外債務の返済期日が2018年4月であるということから、ベネズエラ政府がペトロ発行によって取得した外貨を対外債務返済に充てようとしている様子が容易に想像できますね。
ペトロ普及のための政府の取り組み
ペトロ普及のため、ベネズエラ政府は様々な施策を半強制的に実施しています。
代表的な例が「パスポートの発行・更新支払いにおけるペトロ使用義務」です。
ベネズエラ政府は2018年10月5日、ベネズエラ国民のパスポートの発行・更新の支払いにペトロ(2ペトロ=約15000円)を利用するよう義務付ける方針を打ち出しました。
ベネズエラ政府が発行・更新の支払いにペトロを導入した理由は”難民増加に歯止めをかける”ためだと考えられます。
2ペトロ(約15000円)というのは、ベネズエラにおける月間最低沈金のおよそ4倍に相当し、庶民が簡単に支払える額ではありません。(パスポート発行・更新者の減少)
もちろん、パスポート発行・更新を行えない国民は、国外に移動することができませんから、ベネズエラ国内にとどまらざるを得ないというわけです。(難民減少)
また、ペトロ導入と同時期に、ベネズエラ政府が国境警備隊を配備したことからも、ペトロ導入の目的が”難民増加に歯止めをかけるため”であることはほとんど間違いないでしょう。
仮想通貨ペトロを購入可能な取引所
ベネズエラ政府の公式ウェブサイトによると、ペトロを購入することが可能な仮想通貨取引所は以下6つです。(2018年10月時点)
- Cave Blockchain (caveblockchain.com)
- Bancar (bancarexchange.io)
- Cryptia (cryptiaexchange.com)
- Amberes Coin (amberescoin.com)
- Afx Trade (afx.trade)
- Criptolago (criptolago.com.ve)
また、ペトロの公式ウェブサイトからも購入が可能です。
>>>ペトロ公式ウェブサイト
ただ、どのサイトも日本語には対応していませんので、登録の際は間違いのないようご注意ください。
まとめ~ペトロへの投資は辞めましょう~
ベネズエラにおける政治・経済が混乱していること、それにより国民がボリバル(法定通貨)ではなくビットコインを利用していることなど、
ここまでご覧いただいた方には、仮想通貨とベネズエラの関係をご理解頂けたと思います。
一点注意していただきたいのは、「ペトロへの投資・購入は辞めましょう」ということです。(理由は以下3つ)
- ペトロの事業内容が不透明
- ベネズエラ政府への信頼は薄い
- アメリカはペトロの購入を禁止している
ただでさえ信頼が低下しているベネズエラ政府ですが、ペトロの事業内容について、政府首脳の発言には多くの食い違い(矛盾)がみられています。
現政権のマドゥロ氏は「ペトロ発行ですでに3億ドル(約3650億円)を調達し、ペトロは輸入品決済などにも利用されている」と発言していますが、ペトロ計画に携わるウグベル・ロア大学教育・科学技術相はロイターの取材に対し、「ペトロに必要な技術はまだ開発途中。まだ誰もペトロを使えていない」と語っています。【その他の例】
・ペトロが取引所で取引されている証拠がない
・原油産出量は年々減少している
・ペトロの裏づけとなっている油田開発の動きがみられない
・ペトロ発行で調達した十分な金額が明らかになっていない
ペトロ購入は、自己責任で、上記のような現状をご理解したうえで行ってくださいね。