ブロックチェーン技術について学んでいくと突き当たるのがスマートコントラクトとオラクルの問題です。
非常に便利な技術ではある一方で、オラクルにはまだまだ問題があります。
今回はブロックチェーンにおけるオラクルの問題とその解決策について解説していきます。
そもそもオラクルとは
ブロックチェーン技術について調べると、オラクルという言葉を聞くことがよくあります。
しかし、このオラクルがどんなものであるか理解している人は少ないでしょう。
オラクルがどんなものか理解するためには、前提としてスマートコントラクトの仕組みを知る必要があります。
スマートコントラクトは、契約(コントラクト)を行うためのプロトコルで、ブロックチェーン上で利用する事で契約の自動化ができ、改ざん等もされにくい信頼できる情報として契約内容を残すことができます。
この契約を行う際に様々な外部の情報を取得する必要が出てきます。
例えば、よく例に出されるのはサッカーなどの試合でAチームが勝利した場合にお金が支払われるという契約を行ったとしましょう。
この場合、契約の内容は記録できますが、試合の結果はブロックチェーン上に存在しません。
つまり、結果の情報を外部から取得してきて判断する必要があるわけです。
ここで登場するのがオラクルで、オラクルから現実世界の情報、今回はサッカーの勝敗の情報を得るということになります。
このように、オラクルによって情報を取得しスマートコントラクトを利用すると、契約の内容を改ざんされず、契約が執行された事実を確認することができます。
ブロックチェーンにおけるオラクルには2パターンが存在しています。
集権型オラクル
オラクルが実装されているブロックチェーンのほとんどが集権型オラクルです。
その名の通り、単一のオラクルからAPIなどを利用してデータを取得します。
非常にシンプルな作りなのでデータを取得するためのコストが安く済みます。
分散型オラクル
分散型オラクルは複数のオラクルからデータを取得します。
ただし、データ提供によるインセンティブ設計が非常に難しく、データの真偽を決定するための仕組みも非常に手間がかかります。
そのため、多くのブロックチェーンで今のところ利用されていません。
オラクル問題とは
オラクルは非常に重要な役割を担っていることは分かりましたが、実はそこに問題があります。
情報が正しいかどうかの判断が難しい
オラクルは現実世界の情報を得るために必要な一方で、その情報が正しいかどうかの判断が非常に難しいのです。
例に出したサッカーの勝敗などは一目瞭然ですから、問題となる事はほとんどないでしょう。
しかし、契約の条件が特定地域のある1日の雨量といった分かりにくいものだった場合どうでしょうか?
データが正確なものであると信頼する必要があるわけですが、本当に信頼できるデータかどうかの判断がとても難しいのが分かると思います。
更に、この契約によって動く金額が数億円あるいは数十億円だったとしたら、大元のデータが改ざんされていないとも言い切れません。
ブロックチェーンのデータは改ざんされず、スマートコントラクトによって契約が信頼できるものとなる一方で、オラクルによって利用される現実世界のデータの信頼性という部分が大きな問題となってくるわけです。
データの提供元が消滅する可能性がある
また、今回はオラクルが改ざんされたり買収されたりといったケースを想定しましたが、これ以外にも問題となるケースは存在します。
例えば単一のオラクルによって判断している場合、スマートコントラクトによって結ばれた契約が長期の場合、その結果が出る前にオラクル、つまりデータの提供元が消滅してしまう可能性があるわけです。
トランザクションの作成から完了までに消滅する可能性は長期になればなるほど高まります。
このようにオラクルには大きな問題が存在しているため、ブロックチェーンでのスマートコントラクトが実用レベルになかなか達すことができずにいるのです。
問題を解決することができれば、非常に便利な仕組みになる事は間違いありません。
オラクル問題はどうやったら解決できる?
このようなオラクル問題を放置したままだと、利用できる範囲が非常に狭くなってしまいます。
ですからオラクル問題がどのようにすれば解決できるのか、様々な方法が模索されています。
多くの情報源を用意する
まず、単一のオラクルでは誤った情報やオラクルの消滅リスクがあるため、多くの情報源を用意することで解決しようとしています。
ただし、この場合は信頼性を高めるために参照先を増やすということで、単純にそれだけコストも増えて行くことになります。
特に気になるのが複数のオラクルの情報に差があった場合、どの情報を正しいものとして扱うのかという問題です。
この問題を解決するための方法も幾つか考案されているものの、どの手法でもコストがかかってしまう信頼性とコストのトレードオフの関係になっています。
プロトコルによる評価
複数の情報を組み合わせることによって、その質を評価するという試みが行われています。
ある程度簡単な情報であれば実用レベルになる可能性はあるものの、現在のところ専門性が高い情報の評価は難しいと言わざるを得ません。
まだまだ研究段階であり、現状では使い物にならないレベルと言えます。
PoWによる認証
オラクルの認証にPoWを利用する、つまりマイニングに費やしたリソースの大きさによって与信としているわけです。
一見すると良い仕組みに見えますが、大手のマイナーが占める割合は大きいため、一極集中してしまうリスクが高いとも言えます。
結局のところマイナーが不正を行わないという信頼が前提となってしまうわけです。
トークンホルダーの投票による決定
トークンホルダーの投票によって情報の真偽を判断する方法です。
この方法もトークン保持者が偏っている場合、一部の保持者によって情報操作を行われるリスクがあります。
このように、いくつかの解決策が考えられている一方で、どの方法にも一長一短があります。
多くの人に情報の真偽や質を判断させる方法では、非常に専門性の高い情報の判断が難しくなりますが、少数に判断させる場合はやはり情報の操作などの可能性があります。
しかし、専門的な内容であればあるほど専門家に判断してもらわねば正確な情報を得られませんから、ここでも結局ジレンマが発生してしまうのです。
どうしてもオラクルによって利用される情報は、どこかの部分で「信用する」必要が出てきてしまうのです。
オラクル問題が解決できればブロックチェーンはどうなる?
現在のところオラクル問題は解決されていませんが、この問題が解決すればブロックチェーンは更に利便性の高いものになることは間違いありません。
オラクル問題だけが課題
スマートコントラクトが実用化に至っていない理由は、もはやオラクル問題を残すのみと言っても過言ではないのです。
そもそも、オラクル問題の本質は信用が必要であるという点に集約します。
ブロックチェーンによるスマートコントラクトを利用した契約は、そのほとんどの部分に人の手が入りません。
つまり、契約の曖昧さであったり、改ざんなどの不正を行う機会が少ないという事です。
特にデータを後から改ざんするのが難しいという部分は完璧に近いでしょう。
解決すればブロックチェーンの利便性は飛躍的に高まる
また、契約時の条件を満たせば自動的に契約は履行され、履行された情報もしっかりと残ります。
この事から、オラクル問題が解決すれば、物事の契約の安全性は一気に高まり、契約自体がとてもスピーディになることは間違いありません。
契約といってもとても、その範囲は非常に広いです。
保険の契約などは最初に浮かぶかもしれませんが、これについてもブロックチェーン上で管理するようになるかもしれません。
また、物件の購入なども契約の範囲に入るでしょう。
この他にも、ギャンブルなども対象となることは間違いなく、ベットから払い戻しまで自動化できますから非常に利便性は高いでしょう。
一般的な生活を送るうえでも契約というのは様々な場面で触れるものです。
つまり、オラクル問題が解決されるとブロックチェーンの利用価値は飛躍的に高まるということでもあります。
ブロックチェーンの将来性
ブロックチェーンはまだまだ発展途上の技術と言っていいでしょう。
現在は仮想通貨などが主な利用方法となっていますが、将来的には様々な分野でもっと広く使われていくことは間違いないでしょう。
技術者の数が少ない
そもそも現在はブロックチェーンの技術者の数が少ないという問題もあり、開発はあまり進んでいません。
ですから、オラクル問題が解決されても一気に利用できる範囲が広がるか疑問は残りますが、オラクル問題が解決すればブロックチェーン上で扱える情報が非常に広がる事は間違いありません。
普及すればビジネスチャンスが発生
極端な話をしてしまうと、現実世界で起こり得ることの全てはブロックチェーン上で扱えるものになるわけです。
そうなれば当然ですが、そこにビジネスチャンスが生まれてきます。
現在でも既にそういったプロジェクトは動き始めていて、例えば未来に起きる事象に対する賭け事などもブロックチェーン上で行えるようにするものがあります。
例えば一ヶ月以内に地震が発生するかどうか賭けを手軽に行って、オラクルの情報を元に報酬が払われるわけです。
まとめ
ブロックチェーン技術は進歩しており、うまく活用できれば私たちの生活はよりよくなるでしょう。
しかし、そのためにはオラクル問題の解決は必須です。
現実の出来事をブロックチェーン上で扱うための仕組みは、現在の技術では、ある程度の部分で信頼する必要があるのでしょう。
もし本当にオラクル問題を解決できたとすれば、ブロックチェーンの価値は飛躍的に上がることでしょう。